中間考査戦線、異状無し
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


桜花のあとに若葉の萌えいずる様子へ、
待望の春の訪のいを感じ入ってた頃よりも、
更に季節も ずずんと進みゆき。
今や新緑の濃さも深まりて、
それを育む陽気の強さに追われる格好、
ぐんぐんと上がる気温に炙られては、
木陰にそよぐ風の涼しさに一息つくほど。

 「でも、先日は北海道で吹雪いてたそうですよね。」
 「そうそう、ニュースで見てびっくりしました。」
 「羨ましい…。」

ぼそりと呟いた紅ばらさんだったのへ、

 「こらこら、現地のお人は大変だったんだぞ?」

ひなげしさんが窘めると、

 「〜〜〜〜。///////」

窘められた紅ばらさんが“や〜ん”とばかり、
お隣にいた白百合さんの背中へ隠れるように飛び込み、

 「まあまあ、ヘイさん。
  久蔵殿に悪気はないんだってば。」

暑いのが苦手だから、つい
思ったことが口を衝いて出ちゃったんだよねと。
肩越しにお背に回っておいでのお友達にも
“ねえ?”と訊いて差し上げる、
まるで聖母のような優しい執り成しようへ、

 「何て麗しい光景でしょうか。」
 「本当にvv」

周囲の皆さんから“三華”と呼ばれる彼女らが、
特にお気に入りとしているスズカケの木陰は、
いつの間にか他のグループも避けてしまう特等席と化しており。
決して彼女らの側からそのような素振りをしたり、
先客がいらしたおりに思わせ振りなことを言ったりしたりなぞ、
一度としてないのだが。
何の、お昼休みはいつもそこにいらっしゃるというお楽しみ、
皆様の側で期待してのこと、空けて下さっているらしく。
それならお言葉に甘えてと、
雨の日や秋から冬にかけての寒い時期や、
あまりに陽が強い日以外は、
こうして朗らかに“お外でお弁当”と洒落込んでいらっしゃる。

 「ああ、でも。
  三華様がたも、お勉強は しっかとなさっておいでですのね。」

縁石や傍らの石段の端っこなどへ、
少し大きめのスカーフを敷いて座り込み、
持参のお弁当を開いている彼女らだが。
そんな手提げや巾着袋とともに、
単語帳や小ぶりなリングメモなどもお持ちでいらっしゃるのを指して、
間近い中間考査のお勉強にも打ち込んでおいでなのよと、
その勤勉さを察して“はうぅvv”と誉めそやすることしきり。

 「怠けるという選択肢はないのですよ、勿論。」
 「お得意な分野が奇麗に分かれておいでだから、
  きっと助け合ってらっしゃるのでしょうね。」

ここがまた、お嬢様学校らしいというか、
皆さんが憧れておいでの三華様がたは、
品性や人望はともかくとして、
勉強や運動の全てにおいて
常にトップ…という訳でもないことも結構知られており。
三人それぞれに得手不得手があって、
それが絶妙に咬み合っているのがまた
仲良しさんなところを引き立てていてvvと。

 「何でもいい方へ解釈出来るのは、
  心が豊かで健全で、それは素直な証拠ですよね。」

 「何に於いてもまるきり警戒しないのは
  ちと問題じゃあありますが。」

攻撃は最強の防御なりを地でゆく国育ちのひなげしさんが肩をすくめれば、

 「何の、ここの皆様は、
  物理的にも人的にも
  それは堅固な護りの中でお過ごしですもの。」

 「………。(頷、頷)」

あとの二人がそうと言い。殊に、

 「優秀な私設警護もいる。」
 「そうそうvv」

珍しくも久蔵がそんな風に言ったのへ、
七郎次が賛同しきりと単語帳を振って見せ。

 「な、何ですよ、二人して。///////」

好きでやってることだし、精度への自負もあること。
とはいえ、面と向かって褒められるのは
あんまり得意ではないひなげしさんだったか。
面食らったような顔をし、肩をすぼめてしまわれる。
あらまあ謙虚なことと、
白百合さんが奇麗な指先を口元へ添えてころころと微笑えば、

 「ま、まったくもうっ。
  さすがは鬼百合さんですよね。///////」

褒め殺しまで心得ておいでだなんてと、
あと半分のおむすびにぱくつき、
せいぜいの意趣返しですよと言い返す辺り。
鼻息だけは盛り返したらしい平八だったが、

 「あのねぇ。」

だし巻き玉子をぱくりとほお張ったばかりだったの、
むしゃむしゃときっちり味わってから、

 「その鬼百合ってのは本当にやめて下さいな。」

白百合という呼び方も照れ臭いってのに、
そんな裏コードっぽいあだ名まで付けられちゃあ堪らない。

 「実際に面と向かって言うのはお二人だけですが、
  それを聞いちゃったお人たちが
  おやまあって信じてしまったらどうしてくれますか。」

一番の仲良しが言うなら間違いないって
そんな運びに成りかねないでしょうがと。
玻璃玉のような水色の双眸を眇めてしまう七郎次であり。

 「でもでも、部活中は
  大層厳しい指導をこなしてらっしゃるのでしょう?」

 「当たり前です。」

部活といっても武道には違いない、
竹刀を振る以上、中途半端はいけません。
気が緩めば怪我だってしかねないでしょう?と、
塗り箸を宙でふりふり言いつのり、

 「第一“鬼”だなんて、
  まるで アタシが日頃からもS属性みたいじゃないでげすか。」

こぉんなに心優しいヲトメを捕まえてと、
わざとらしくも つ〜んとそっぽを向く七郎次で。
そんな態度からして、本気で困ってはないなと思った平八の傍ら、

 「エス……?」

こちら様は、今日は珍しくもサンドイッチだったお弁当、
ライ麦パンのをミルクティーにて流し込み、
紅色の双眸をキョトンと見開く久蔵殿であり。

 「あ…。」
 「え? もしかして御存知ない?」

ああ、そういえば。
このヒサコ様こと久蔵殿は、
かつての彼よろしく、俗なことには馴染みが薄い。
お高くとまっていた訳でもなければ人嫌いだったわけでもないが、
平時まで親しい人というのは限られていて、
しかもそれで不自由なしという、孤高のオスカル様だったものだから。

 “そかー。
  実は、学園一 世間知らずの姫様なんだ、久蔵殿。”

 “一子さんも双葉さんも、
  そういう言葉が出てくる会話なんて
  持ち出さなかったでしょうしねぇ。”

それこそ鬼のように強かった剣豪、
この平和な時代にては、
フェアリーみたいな存在となってたらしいとの認識も新たに、

 「えっとぉ…。」
 「エスっていうのはアルファベットのSでして。」

今更丁寧な説明をわざわざ構えるというのも何だけど、
こうまで仲のいい私たちなのに、
彼女だけが判らない“符丁”が出来てしまうってのも、
それこそ何なので。
顔を見合わせた七郎次と平八、
うんと頷き合うと、
出来るだけ言葉を選び、判りやすいよう説明しかかったが、

 「…知ってる。」

そんな展開に“まあ待て”と制止の様子を見せるかのよに。
うんうんうんと、どこか感慨深げに頷いた彼女だったのが、
妙な話、ちょっと意外。

 「し、知ってる?」
 「久蔵殿が、ですか?」

いやあの、信じないワケじゃありませんが、と
七郎次が殊更に驚いた自身の態度への弁解を告げ、
そうそう、
久蔵殿は嘘も方便も苦手だってことくらい、あわわ…と、
平八が却って微妙な言いようになったことを焦っておれば、

 「エスというのは、
  女の子同士が兄弟の盃を交わすことを言うのだ。」

ウチのガッコのようなところで、
よく見られる関係のことだと締めくくり、
えっへんとばかり、
お鼻を高々とそびやかしているよに見えるのだが、

 「…ジョーク、でしょうか。」
 「いや、きっと本気だと思う…。」

先程 七郎次がやって見せた“つ〜ん”に似てもいるけれど、
あれはわざとらしい“ふり”だったのであり。

 「久蔵殿、
  もしかして旧作レンタルとかで妙なもの観ていませんか?」
 「?」
 「それか、榊せんせえから中途半端な説明されたとか。」
 「??」

とりあえず、
他の場でこんな突っ込みどころ満載な
お途惚け発言をされては堪らぬとばかり。

 そっちのエスは恐らくこうで、
 シチさんがそうじゃないのかって喩えたのはですね。

 あ、どさくさに紛れて何て言い方しますか、ヘイさんっ。

いやに熱の籠もった討論が始まったらしい三華様たちの様子へ、

  ああ、さすがは品行方正なお姉様たち…///////、と

内容までは聞こえないからこそのこと、
罪のない下級生たちが
“勉学熱心な”お姉様がたのお姿へ、
うっとりと見ほれてしまった、
とある初夏のお昼休みだったそうでございます。





    〜Fine〜  14.05.19.


  *言わずもがな、
   久蔵さんが勘違いしたのは
   女子校などで結ばれる
   姉妹関係の誓約“S”のことでして。
   それがどうして“兄弟仁義”になったのかは、
   榊せんせえにも心当たりはないそうです。
   勿論、一子さんたちと
   姉妹の盃を交わしたワケでもありません。(当たり前〜)

   「…判った、よく説明しておこう。」

   SとMについては私たちが教えましたので、
   おいおい、それは問題ないのか?と、
   同座している本人様の耳を塞ぎつつ、
   なんか微妙な会話になってたら笑えますvv。

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